<かつて少年だった>
裏通りの小さな古書屋
そこで出会った少年は
まだ見たことのない
街の外の世界に憧れていた
揺れるランタンの灯りの下
僕は少年と話しながら
今までの旅のことを
ひとつひとつ思い出していた
――あれはどんな歌だったか
飲みほしたグラスの向こう
父さんは僕に背を向け
壇上の歌い手を見つめていた
(降り積もっていく新しい景色は
どこまでも広がるつぎはぎだらけの地図
次々に切り替わっていくどんなスライドも
僕は忘れたくなかった
だけど――)
<少年は、夢みていた>
(さよならを言おう
たくさんの不条理に、明けることのない朝に、置き忘れた昨日の歌に。
バラードを歌っていた彼女はもういないし、
氷のすっかり融けてしまったスコッチももうない、
描きかけで切り取った粗描もなくなった。
夜を越えて、辿りつく朝に寄せて。
繁栄と栄華の城壁は高く歌う。
その歌声を止める手だては、年老いた隠者の杖か、
叫び立つ群衆の旗か、愚かな僕の失墜か)
嘲笑う背中の影がやさしく僕を抱き寄せる
それを振り切れたのならば
僕は遠くへ行けるのだろうか
裏通りの小さな古書屋
そこで出会った旅人が聞かせてくれた
たくさんの景色を僕は探しに行くんだ
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