荒野にて
―誰かがおいて行った日々を思うて
荒れ野の風は泣くばかり―
バーレルガーシュ
バーレルガーシュは魔女の娘
魔法を使えぬただの娘
村を見下ろす高台にある
古いお城に住んでいた
バーレルガーシュは魔女の娘
一番末の泣き虫小虫
姉は王都の大樹となり
兄は海蛇の餌(え)となった
バーレルガーシュは魔女の娘
旅の道は銀の轍
愛する人を失っても
歩くことをやめなかった
バーレルガーシュは魔女の娘
旅の終わりは小さな石
歩みをとめた旅人には
帰るおうちもなくなった
瓦礫旅行記
あれは私が十の夏
流行り病が町を襲い
太陽さえもついぞ現れなかった
あの夏
(母さんは言っていたのだ!
「決してあれを開けてはいけないよ」と―)
広がる呪い
枯れ果てる大地
町が灰色に染まる―
石の廊下に響き渡る
姉さんの怒鳴り声
兄さんの嘆き声
私は一人なにもできず
本棚の影
うずくまりふるえていた
まず姉さんが家を出た
母さんの杖を掲げて
じき兄さんも家を出た
伝家の剣を携えて
広い屋敷に一人
待てど暮らせど
二人は戻らなかった
灰色の町に
吹き荒ぶ冷たい風が
私を呼び起こす―
私は旅に飛び出した
埃かぶった古い外套を手に
見知らぬ世界
見知らぬ道
手がかり求め
あてどなく歩き往く
私の旅は終わらない
つみびとさがせ
つみびとをさがせ
おれたちのあしたをうばった
つみびとをさがせ
かがり火をともせ
にくしみさそい
この身をもやす
かがり火をともせ
鐘をうちならせ
友よ
たたかいは終わらぬ
かぜにゆれる旗
あの日の誓いを
あいする人を守れ
―忘れるな
わたしたちはたくさんの悪意の中で生きている―
ファーザー・ランド
-the Further Land-
愛を歌いたかった
あなたのそばで
たとえそれが
重ねた日々を解こうとも
悲しみの淵にいる人
あなたの胸には
誰の声が宿りますか
荒れ野の葉ずれの向こうに
私の歌を聴くときは
疲れたその足を止めて
どうか耳をすましてほしい
愛する人
あなたの往く道が
やさしいものであることを
荒れ野の風を友とし
歩みをやめぬ
ただ一人の人
あなたに寄り添う歌があることを
どうか忘れないで
あなたを思い続ける
ただひとつの歌